20120124

1/18 wed 歌謡曲

高護『歌謡曲――時代を彩った歌たち』(岩波新書、2011)読了。新書サイズだけど、音も聴きつつ歴史観を頭に入れようと思って読んでたら時間がかかった。

戦前の佐藤千代子「波浮の港」(1928年)から実質的に80年代末のユーロビート歌謡までを基本的に時系列に論じているんだけど、とにかく実際の楽曲ありきの記述スタイルがすごく貴重。音楽理論(ドレミの書き起こし)や歌詞、歌唱法の分析など、すべてが徹頭徹尾具体的で、しかも読みやすく、なんというか「楽曲派」の神様みたいなテキストだった。

60年代の話がやっぱり面白くて、ロカビリー・ブーム〜カヴァー・ポップスの影響が曲も歌唱法も一変させていく過程が丁寧に描かれる。GSみたいなバンドサウンドの例だけでなく、例えば北島三郎がどう新しかったのかとか、ある種の演歌のイノベーションにも触れられるのも個人的にためになった。

面白かったのは西郷輝彦の例で、元祖御三家の三人の中でも、ロカビリー出身で戦後生まれの西郷だけが歌唱法もリズム解釈も異質だという指摘。橋幸夫や舟木一夫が本質的には従来的なレコード会社の専属作家制から生まれたお弟子さんなのに対して、いわばこの人だけはロック以降の感覚があると。

「星娘」(1965)なんか実際に聴くと、西郷輝彦ってこんな歌手だったのかと驚かされる。具体的にはエルヴィスゆずりの細かいヴィヴラートやヒーカップ(裏声)、マンブリング(吃音)などで、ある意味V系の元祖みたいな、ヌメヌメとした異様な発声法になる。一般にリズム歌謡・エレキ歌謡で有名な橋幸夫には、確かにこの感覚はない気がする。


全体的に、耳で聴いて確かめられる変化に、歴史的背景の裏付けが与えられてくのが気持ちいい。欧陽菲菲はブラス・ロックの16ビート感覚を導入したとか、それは外国人のアグネス・チャン同様「言葉の意味」に縛られないリズム解釈のおかげだとか、キャンディーズの「春一番」はユニゾンを増やしたのがヒットの鍵だとか、小柳ルミ子などの宝塚マナーはヨーロッパの声楽とレヴューを合わせたステージ中心の発声法だとか、なるほどなーという指摘が満載でした。